西山文庫

この物語はフィクションです。

来週、ペットを捨てに行く

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もう面倒見てられない。

 

 買ったときは期待通り、私に楽しみや癒しを与えてくれた。
しかし、それも一週間と続かなかった。

 

 邪魔なので部屋の隅へ投げつける。
それでも、遊んでほしいのか足元へ寄ってくる。
何度も、何度も……

 

鬱陶しい。

 

そんなに遊んでほしいならサッカーでもしようか。
私は渾身蹴りを食らわす。
甲高い声をあげながら玄関へと転がっていく。
それはまるで跳ねる方向の予測がつかないラグビーボールのようだった。

 

すかさず部屋の扉を閉めて締め出す。
お前は冷たい玄関で震えていろ。
これでようやく静かになった。

 

それにしてもこいつらの繁殖力には驚かされた。
気付けばどんどんと増えていく。
どこかで手を打たなければならない。

 

もっとも恐ろしいのは適応力である。
一発蹴りを食らわしたからだろうか、今では玄関の隅でじっとしてる。
大きいものから小さいものまで、鳴き声の一つも上げず、ただこちらをじっと見つめている。
来る日に備え、反撃の牙を研いでいるようだ。

 

日に日に私は恐れを抱くようになった。
いつの日か本当に押しつぶされてしまうのではないかと。
意思の疎通ができれば、まだ望みはあるのだろうが、そんなことはできない。
考えるだけ無駄だ。バカげている。

 

捨てるしかない。
そう頭をよぎった。それが最善の策だ。
こんな恐ろしいものを欲しがる人なんていないだろう。
捨てる。捨てる。捨てる。
それだけを胸に刻み、天に誓った。

 

 

しかし、神は私を見放した。

 

 

仕事帰りの私を出迎えるのはいつもの光景。
ひっそりとこちらを睨みつける鋭い眼光。
ぞっとする。血の気が引き、手にはねっとりとした汗が滲む。
激しい動悸を押さえながら、スマホで曜日を確認する。

 

 

そうか、今日……今日だったのか。

 

 

また新たな一週間がはじまる。

 

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