西山文庫

この物語はフィクションです。

陽気な昼下がりの天使。またはサイコパス

不意に頬を撫でる風が冷たい。
でもそれは、気温が暖かくなったから。
3月も下旬、春である。

世の学生は春休みに突入し、新たな始まりに胸を膨らませる。
その反面、不安や意図しない始まりに心を病んでいる方もおられるだろう。
加えて、花粉症に悩まされている方も多いだろう。

私は花粉症でもなければ、何ら変わりない4月を迎えるので苦悩はない。
すまない。
ただ一つ、言うならば
「時は来る。そして、時は過ぎる」
あれこれ思い悩んでも仕方がない。

そう、仕方がないのである。

 

私は本日、普段は決して近づかない東京ジャングルの奥地(都内)に向かった。
なんと仕事である。
目に突き刺さる極彩色、脳を揺さぶるケミカル臭、奇声を上げる猛獣たち……etc
何度行っても慣れない。危険すぎる。

1秒でも早くお家に帰りたい。
が、お仕事を放りだすわけにもいかない。
ベンチに腰掛け、できるだけ小さくなり気配を潜める。
荒れ狂う猛獣たちに見つかってはならない。
早くッ……お仕事相手のA氏、我をここからエスケープ!

1時間後。

 

木山裕策「home」を何度、脳内再生しただろうか。
次は、いきものがかり「帰りたくなったよ」にしようかな。

いや、待て。遅すぎだろ。
これは抗議だ。抗議せねば。

スマホを取り出す、LINEを開く、これまでのログが目に入る。
仕事の日程は明日。

呼吸を止めて一秒。私は駆け出した。
この東京砂漠ロンリネス。

 

一体、どこまで走り続けたのだろう。
気付けば、とあるカフェに入っていた。
目の前にはアイスコーヒーとケーキが置かれている。

これ、食べていいのかい?
自分が注文したのかな?

周りには友人と話している人、パソコンをいじっている人、読書している人と様々。
そして皆一様に飲み物を持っている。
店員と目が合う。よそよそしく目をそらされる。

よし、食べよう。

 

ここはオアシスだ。
軽快な音楽、芳醇なコーヒーの香り、捕食されない安全地帯。

「明日も来なきゃいけないのか……」
避けられない絶望に押しつぶされそうになっていたその時。
目の前に一人の天使が現れた。

看護師か歯科衛生士だろうか、
白衣にカーディガンを羽織った一人の女性がテーブルに座った。
おもむろにスマホを取り出すとイヤホンをつけてジッと画面を見つめている。
YouTubeだろうか、Amazonプライムだろうか、またはNetflixだろうか……

そんなことはどうだっていい。

仕事の休憩時間なのだろう。
都会の喧騒から離れ、カフェで一人、自分の世界に浸る。
その姿がとても美しかった。

まさに陽気な昼下がりの天使。
時折、微笑む顔が愛らしい。

 

「いつまでも見ていたい衝動」と「帰りたい欲」

 

そんなもの議論するまでもない。

私は席を立った。

しかし、天使が何を見ていたのかが気になる。
貴重な休憩時間。
束の間の癒しを彼女は何に求めたのだろうか。

 

 

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内なる変態性に気付きながら、店内を不自然に回り出口へ向かう。

チャンスは一度きり。

近づく天使との距離。

 

今だッ……後ろから失礼しますッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

らき☆すた」だった。

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動画ではなく画像のように見えたのは、きっと一瞬だけしか見なかったからだろう。

(終)